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新宿歌舞伎町ビル火災と防火対象物点検

防火対象物点検の制度ができた背景 新宿歌舞伎町ビル火災
防火対象物点検の制度ができた背景は…。

平成13年9月に死者44名を出した「新宿歌舞伎町ビル火災」という未曾有の大惨事が起こりました。🔥

 

この新宿歌舞伎町ビル火災の特徴として、地下2階・地上5階建てで延べ面積が516㎡という比較的小規模な雑居ビルであったにもかかわらず44名もの死者が出たことが挙げられます。🏢

 

では、何故この様な小規模な雑居ビルであるにも関わらず、大きな被害が出てしまったと思いますか?💡

 

また、新宿歌舞伎町ビル火災後に消防法が大きく改正され、その際に制定された「防火対象物点検」の重要性についても触れていきますので、皆さま是非ご覧下さいませ。📝

新宿歌舞伎町ビル火災の問題点


まず、当該ビルに所轄消防署の立入検査が入った際に指摘されていた不備事項が以下の通りです。👮📃

  1. 防火管理者未選任
  2. 消防計画未作成
  3. 避難障害(3階から4階階段室の商品存置)
  4. 消火・避難訓練未実施
  5. 消防用設備点検未実施・未報告
  6. 自動火災報知設備感知器未警戒
  7. 避難器具未設置(3階部分)
  8. 誘導灯不点灯(2階)

また、屋上に事務所が違法増築されており、耐火構造の要件からも外れていました。💔

参考:新宿歌舞伎町ビル火災について 日本建築学会防火委員会

 

では、この問題だらけのビルで火災が発生し、何が起こったかという話を消防設備士のフィルターを通して解説していきます。🔍

①火災報知器が鳴らなかった


天井の感知器が自動で火災を報知
天井の感知器が自動で火災を報知してくれるはず…。

当該ビルには自動火災報知設備が設置されていましたが、火災発生時にベルの鳴動を聞いたという情報が確認されていません。🚨

 

これは、当初より自動火災報知設備の誤作動が頻発しており、自動火災報知設備の受信機(制御盤)の電源を切っていた為であると報告されています。🔌(;´Д`)💦

 

また、4階部分に関しては自動火災報知設備感知器が天井に設置されているにも関わらず、その上から改装により天井を貼っており、感知器が埋まっている状態になっていたそうです。💔

 

つまり火災が「早期発見」できる状態ではなかったのです。🆖


②防火戸が閉まらなかった


防火戸開放時に煙が立ち上る様子
防火戸開放時に煙が立ち上る様子。

もし、防火戸が適切に作動していたら44人全員が助かっていたのではないかと、警視庁が行った鑑定にて報告されています。👮❕

 

何故なら、防火戸が閉鎖することで区画されるはずの階段室を伝って燃焼時に発生する煙が立ち上り、大量の一酸化炭素が上階の部屋一体に充満して多くの建物内にいた人々が死に至った為です。

 

防火戸が正常に閉まった状態のシミュレーション結果によると、消防隊が到着するまでは、まだ死に至る状況にはならなかったと分析されています。📉

 

皆様が利用する建物には、防火戸前に障害物ありませんよね?📦


煙感知器と連動して自動で閉鎖する防火戸
煙感知器と連動して自動で閉鎖する防火戸。
火災当時の階段室に存置されていた障害物
火災当時の階段室に存置されていた障害物

参考:NHK NEWS WEB


③避難できない状態であった


緩降機という避難器具を使用
緩降機という避難器具を使用する様子。

当該ビルには避難階段が1つしか設けられておらず、その避難階段が火災時の生命線となっていました。🛣

 

しかし、出火当時の階段室にはロッカーやプラスチック系の可燃物等が多数積載されており、階段の乗降を困難にしていただけでなく、それらが不完全燃焼を起こしたことで多量の一酸化炭素を発生させた為、より死に至る危険性が増したと言われています。🧪

 

また、4階に設置されていた緩降機については使用に至る前に全員が行動停止しまっていたものの、3階については在館者が避難を試みていた為、もし消防法を遵守して避難器具を設置していれば、3階での被害が軽減された可能性がありました。💡


④防火管理がされていなかった


避難障害 タマスケ
もし火災が発生した際に困るのは誰‥?

上述しましたが、以下の様な「防火管理の不備」が指摘されている建物でした。🔍

  • ✅防火管理者の未選任
  • 消防計画・共同防火管理協議事項の未作成

これらは消防法上、建物の “管理権原者” に対して実施義務が課せられていますが、小規模雑居ビル等ではテナントの交代が多いこともあり『‥誰かがやってるやろ。』という様な状況になり易く、防火管理に対する意識が低いままになり、被害を大きくしているという背景があります。🏢


消防法の改正


同じ悲劇を繰り返さない為に消防法が改正
同じ悲劇を繰り返さない為に消防法が改正。

新宿歌舞伎町ビル火災の後には、まず全国一斉立入検査が実施されたのですが、その結果何と90%以上という割合で同様の雑居ビルについて何らかの消防法令違反があったと報告されました。📣

 

これらの影響を受け、消防法が幾つも大きく改正されたのですが、その中でも特に以下の3つのインパクトは強烈なものでした。💥

  1. 自動火災報知設備設置対象が拡大(消防法施行令第21条)
  2. 消防吏員も措置命令が可能になった(消防法第5条の3)
  3. 防火対象物点検・報告制度の導入(消防法第8条の2の2)

では、最後に上記の “3.” にもあり、当ブログのタイトルでもあります「防火対象物点検」の重要性について述べていきます。💡


「防火対象物点検」の重要性


防火対象物点検を実施しなければならない理由
防火対象物点検の制度が必要な理由は…。

上述しました全国一斉立入検査の結果を踏まえて、消防機関だけでは建物の実態把握の限界を超えており、とても手に負える状況ではないという事が発覚しました。🕵💦

 

この状況を受けて、建物の防火管理に関する一切の義務が生じている “管理権限者等” に対して、一定の規模・用途の防火対象物については、火災予防のプロに定期点検を “させ” て、その結果を所轄消防署に報告しなさい!…という仕組みが作られたワケです。💮

 

そこで、我々の様な防火対象物点検資格者という消防法上で規定されたプロが管理権限者様と共に確認し、二度と新宿歌舞伎町ビル火災の様な悲惨な被害を出さない様に保守管理しているのです。💯


まとめ


  • 平成13年9月に死者44名を出した「新宿歌舞伎町ビル火災」という未曾有の大惨事が起こり、その結果を受けて特に①自動火災報知設備設置対象が拡大・②消防吏員も措置命令が可能に・③防火対象物点検・報告制度の導入という3つのインパクトのある消防法改正があった。✅
  • 当該ビルに所轄消防署の立入検査が入った際に幾つも不備事項が指摘されていたが、火災後の全国一斉立入検査では90%以上という割合で同様の雑居ビルについて何らかの消防法令違反があったと報告されていた。✅
  • 消防機関だけでは建物の実態把握の限界を超えており、とても手に負える状況ではなかった為、“管理権限者等” に対して、一定の規模・用途の防火対象物については、火災予防のプロに定期点検を “させ” て、その結果を所轄消防署に報告しなさい!…という仕組みとして防火対象物点検というプロが管理権限者様と共に確認し、二度と新宿歌舞伎町ビル火災の様な悲惨な被害を出さない様に保守管理する仕組みが作られた。✅

参考資料


ダウンロード
新宿区歌舞伎町雑居ビル火災について_日本建築学会防火委員会.pdf
PDFファイル 71.1 KB

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コメント: 2
  • #1

    ミニクロ (水曜日, 29 1月 2020 20:41)

    雑居ビル火災、怖いですね。廊下や階段に物を置いたら行けないですよね。
    マンションに消防点検来る消防士さんは、いつも廊下、階段、チェックされています。

    防火という点では共通するかもしれませんが、
    先日、「かんさい~でんき、ほぉ~あんきょうかい(関西電気保管協会)♪」の
    おっちゃんが、分電盤とメーターの漏電調査に来ました。
    なにやら計器を見せてくれて、この値が○○だったら、漏電が疑われますが、
    こちらは□□なので、大丈夫ですといい、
    分電盤は、熱をもってないか、サーモーメーター?でチェックされてました。

    たしか4年に一度ですが、年々検査機器が進化してるような気がします。

  • #2

    管理人 (木曜日, 30 1月 2020 08:56)

    >ミニクロ様
    コメント有難う御座います!�✨
    雑居ビル火災、ただでさえ建物の構造・用途上でリスクが高いのに、適切な防火管理もされていない場合が多かったので、昔は今よりもっと恐ろしい状態でした。
    そして厳密に言及させていただきますと、消防点検にくるのは我々の様な「消防設備士」でして、消防士さんが来るとすれば「立入検査」というやつになります。

    電気機器について、仰る通り日進月歩で便利になっていますね!
    今後とも、何卒宜しくお願い致します!!☀✨